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2007/レポート5
(取材報告)

ぼうさいカフェ in ねりま(9月16日14時00分〜16時00分

 2007年9月16日、練馬区役所防災センター(本庁舎7階)において、30人を超える区民の方のご参加のもと、「ぼうさいカフェ in ねりま」(内閣府・防災推進協議会主催、練馬区後援)が行われました。
  >> ご案内のちらしはこちら (pdfファイル)
 すでに、下記のページでは、くわしい当日のレポートがのっています(全体レポートはそちらをご覧ください)。
  >> 内閣府ホームページ「ぼうさいカフェ」はこちら

 今回は、慶応大学の吉川(きっかわ)肇子先生をお招きして、京都大学の矢守克也先生、ゲームデザイナー網代剛さんとともに開発をされた「クロスロード」という防災ゲームを体験してみました。ゲームは、基本としては5人一組で行われ、初対面でも抵抗なくそれぞれの意見を交わすことができたり、新たな問題の発見や合意形成へと結びつくよう、ルール上、さまざまな工夫がされています。多数の意見が勝利となる一方で、1人だけ意見が異なる場合でも、それを大きく評価するルールもあります。
   >>クロスロードのくわしい説明はこちら

 少し内容をご紹介しましょう。設問の一つに、ボランティアについて次のような設問があります。あなたは、イエス、ノーのどちらだと思われますか?

 「あなたは市民。今、大地震の被災地で、救援活動のためのボランティア保険の費用(約700円)を、被災地の自治体が払うのか、ボランティア本人が払うのかでもめている。自治体負担の意見に賛成する?」

 最近、ボランティアという言葉はよく聞かれるようになりました。大きな災害に見舞われた現地でボランティア活動をするとき、ボランティアは、事故や感染症にあう可能性に加え、あやまって物品を破損してしまうことがあります。そうしたときのために、ボランティアには保険をかけるのが通例となっていて、今回は、その掛け金をだれが払うかという設問です。
 この設問のあと、次のようなご説明がありました。
 設問がうまれるきっかけとなった過去の事例では、2003年、宮城県南郷町における2000人近くのボランティアの掛け金は、114万円でしたが、当初、自治体は資金のメドがたっていませんでした。2004年7月の福井豪雨に活躍した約60,000人(2004年8月時点)のボランティアに対しての掛け金は3727万円にもおよびましたが、福井県は、1997年のナホトカ号油流出事故の義援金が1億円以上、余っていたのでたまたま負担することができました。
 1人分はたいしたことはありませんが、全体としてみると、大変な金額になるということがわかります。

 このように、吉川先生の巧みなご進行のもと、さまざまな視点で防災について考えてみました。途中、練馬区観光協会からご提供いただいた「ねりまの名品21」に選ばれたお菓子をほおばりながら、みな、楽しく和気あいあいと2時間を過ごしました。

全体のようす
吉川先生がテーブルをまわって答えを引き出します
さまざまな年齢層の方が参加されました
設問のひとつを、掘り下げて考えてみました

【感 想】
 さて、ここからは、練馬区のこのゲームの具体的な活用方法を簡単にまとめてみました。一部には、今回、参加された複数の方々のご意見も参考にさせていただいています。
 今回と同じような形でクロスロードを導入するとよいと思われるのは、次のケースです。

  ○ 職員研修(阪神・淡路大震災のときのインタビューを元にされた設問が多いことから、最適です)
  ○ 避難拠点としてのさまざまな役割を理解するために
    (避難拠点への参加が間もない方などに対する防災勉強会など。想像力を高めるために。)
  ○ 子どもたちが楽しく学ぶ場において
  ○ 情報拠点単位の避難拠点の交流会などで、知らない人どうしが話し合うきっかけとして、始めの30〜40分程度

 設問は、それぞれの対象者にあわせて選定(もしくは一部作成)し、各グループには、その場に応じて状況付与をしたり、質問や過去の災害時の状況、考えられる事態等を話す進行役(先生方が高知県などで認定しているファシリテータがそれにあたるかもしれません)をもうけます。特にゲームのあとに行われる、その設問の背景や過去の事例について説明は、参加者が防災について学ぶために、もっとも大切な時間と感じます。

 区や避難拠点では、さらに掘り下げて対策を練ったり、想定される事態を話しあっておくことも大切になります。
 もともと「正解がない」という設定とはなっていますが、なかには、ベストではないにせよベターな答があると感じる設問も見受けられます。区や避難拠点としては、一部の参加者から大変ユニークな回答が出されることもあるので、それも選択肢のうちという認識が残ると厳しい、と感じるケースも想定されます。また、組織全体として、ある程度のコンセンサスを得ておく必要があると思われる設問もあります。ある程度の方向性を相談しておいたり、個々の担当者の裁量の幅もおおまかにではありますが、条件が変わった場合を想定し、相談・検討をしておくとよいと思われます。さらに、そういう決断にいたらなくていいような事前対策も大事になるでしょう。

 わかりやすい例をあげると、たとえば「あなたは市民、犬を避難所に連れて行くかどうか」という設問がありました。
 ゲームでは、イエス、ノーを選択し、どうしてそれを選んだかという理由をいうことになります。ただ、このゲームでも想定されているように、現実問題として考えてみるなら、こういう犬ならイエスだけど、これだとノーというのが出てくるでしょう。仮に避難拠点で犬を受け入れるとしていても、始終、吠える犬やノミがたくさんいるような不衛生な犬、予防注射を受けていない犬などが来たら、受け入れるとはしているもののどうしたらいいんだろう、とその場で判断を迷うことも考えられます。一方、飼い主からすれば、連れていっても、雨がよけられるケージやしばっておく場所、食べ物がなければ、これまた戸惑います。自分が寝泊まりする場所に連れていくことができないことに異議をとなえる人もいるでしょう。このように双方がお互いにどうしよう、と悩む場面は十分に考えられます。
 そうであれば、飼い主の側では、最低限のしつけや、いざというとき犬のストレスが少なくなるように、ふだんからケージに慣れさせておいたり、犬の避難グッズを準備しておくことが大切になりますし、加えて犬も一緒に避難するには、どんな形が考えられるのかを、あらかじめ避難拠点と十分に相談をしておく必要もあります。不慮の事故が起きないようにするとともに、アレルギーをもつ人にも、犬が好きでない人にも対応できる方策を考えなければいけません。避難拠点側は、犬の衛生・健康管理を含めて、最寄りの獣医さんやペットホテル、ペットフード店などの力を借りてもいいでしょうし、地主と話をして近くの駐車場や畑、空き地などに、一時的に、犬の避難所を作るといった方法も考えられるかもしれません。
 新潟県中越地震にみられるように、ペットと飼い主が一緒にいることで、癒されたりストレスが緩和されるといった効果は大きいのですが、一方で避難所でペットと生活ができないために車のなかで過ごしてエコノミークラス症候群の危険と隣り合わせになったり、ペットと離れたくないために危ない自宅で過ごす方や、放して(逃げて)野犬化してしまうなど、もし練馬区で起きればより大きな問題となります。
 区では、練馬区獣医師会と一緒になって、以前からこうした犬のしつけの重要性も訴えています。より具体的な訓練を実施するなど、地域に応じたさまざまな方法を考えてみることもできます。
 >> 被災したペットの医療や保護について(練馬区獣医師会の講演要旨/練馬区防災課)

 さらに一歩進めて考えると、飼い主は、できれば避難所に行かなくてもよいように、犬とともに身を寄せることができる親戚や友だちの家を探しておかれるとよいでしょうし、そもそも自宅が地震で壊れることがなければ、そんな心配をする必要もありません。ぜひ、耐震性があるかどうかを調べておいたり、地震に耐えられなければ耐震強化をしておくことが望まれます。
 >> あなたの家は地震に耐えられますか?(pdfファイル)(区報 平成19年9月11日号1面)
  >> 区の耐震診断、耐震改修工事助成制度のご紹介 

 このように、問題によっては「決断をしなくてはいけない場面」を迎えることがないように、事前にさまざまな方策を考え、対処あるいは普及啓発しておくことが可能です。ぜひそこまで地域で話し合ってみてください。

 このゲームは各地で実施され、それぞれの地域特性、対象者にあった設問も作成・共有されています。 >> クロスロード新聞
 区においても、設問を避難拠点それぞれが作り、それを集めて共有する形も考えられます。そうした設問を、区、PTA、学校要員、区民防災組織、一般区民、災害時要援護者など、立場をかえて実施することで、お互いの理解を深める効果も見込めます。

 とはいっても、避難拠点によっては、すでに課題や取り組まなければならない事柄がありすぎて、時間に追われ、どれから手をつけてよいかわからない状態のところも多いことでしょう。そういった避難拠点のためには、区は順次、拠点としての指針等を提供していくことも必要かなと感じます。

 ちょっといつもと違う形のレポートになってしまいましたが、このように、大きな可能性と広がりをもつクロスロードです。防災を学ぶきっかけとして、何かの機会に、ぜひ体験してみてください。

レポーター
秋山 真理(ねりま減災どっとこむ)

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